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2005年12月3日(土)、混声合唱団フォンテ 第30回記念演奏会に於いて、
唐沢版 ヘンデル メサイア の再々演を行いました。


メサイアの新口語訳について    2005/12/03

  私たち 「 混声合唱団フォンテ 」 は旧名 「 流山市民合唱団 」 から数えて20回、25回に引き続き今回の定期演奏会、ヘンデルの大作、 オラトリオ 「 メサイア 」 に取り組むこととなりました。 ご存知のようにオラトリオは音楽劇です。 劇にはストーリーが有り、 歌う者にとっても、 聴く者にとっても、 そのストーリー性がわかるということが大切です。 これは歌う側にとって特に大切な事で、 自分達自身が今、 何を表現しようとしているかという 「 気持ち 」 が、 感動的な演奏 ( 上手、 下手という意味ではなく、 ひとの心の琴線に触れるかどうかという演奏 ) を引き出すのではないかと思われます。

  原語で歌う事にはそれなりの意味が有りますが、 問題は、 原語である英語に対して、 私たちはそれなりの感性を持っているのだろうか?  ということです。 例えば、 日本語で 「 淋しい 」 という言葉を聞いたり、 口にしたりするとき、 私たちは 「 本当に淋しい 」 と感じ、 時には涙することもあります。 しかし英語の " lonely " という言葉を聞いたとき 「 淋しい 」 と感じるのではなく、 それは 「 淋しいという意味だ 」 と理解するのが大多数です。 ましてや " lonely " という言葉で涙する日本人など滅多にいません。 この 「 感じる 」 と 「 理解する 」 は演奏する側にとって、 きっと何かあるに違いないと考えられます。

  原曲は原語である英語に合わせて作曲されているわけですから、 英語の響きが作曲者の意図するものであることは間違いの無い事実です。 しかし、 それを若干犠牲にしてでも 「 言葉の壁 」 を打ち破ることに意義があります。 音楽劇であるオラトリオ、 受難曲などでは特に重要です。 例えば小沢征爾は、 受難曲を演奏するときはほとんどその国の言葉に訳したもので演奏します。 小沢の日本語マタイ受難曲は大変感動的な演奏でした。 「 カルチャーセンターの教養的な演奏 」 ではなく 「 肌で感じる演奏 」 を私達自身の言葉でやってみたいと取り組んだのが今回の 「 新口語訳 」 です。

  さて、 日本語訳ですが、 幾つかのバージョンが出版されておりますが、 何れも文語体で、 目で見ると意味が分かりますが、 耳から入るとどうもピンときません。 例えば有名なハレルヤコーラスで " King of Kings, Lord of Lords " の訳が 「 諸王の王、 主の主 」 というのがあります。 確かに字を見ると意味が分かりますが、 耳から 「 しょおうのおう、 しゅのしゅ 」 と聞こえてきたら、 一瞬どんな意味か考えてしまいます。 私達の訳では 「 わが王、われらの主 」 というように、「 歌う側からも聴く側からも分かりやすく 」 を心がけました。

  またメサイアで多用されているメリスマ ( 一つの言葉で音を動かしながら伸ばす歌い方 ) の部分は、 可能な限り母音が原音と一致するような言葉を選ぶなど、 音楽的に原曲のイメージを最大限に生かすような配慮をしました。

  例えば、 His yoke is easy (「 彼のくびきは易しい 」 の意 ) のフレーズでは、 メリスマは easy の言葉で伸ばします。 聴く側にとっては、 延々と 「 イーーーー 」 と聞こえて来るわけですが、 私達はこのフレーズを 「 そのくびき 」 としました。 メリスマの部分は 「 くびき 」 の 「 き 」 で伸ばしますから、 聴く側にとっては、 原語の時と同様 「 イーーーー 」 と聞こえてきます。

  日本語訳に関し、 最も苦労したのは音節の違いでした。 英語では言葉は1つか2つ、 多くても3つか4つの音節で出来ています。 例えば healed という言葉では 「 ヒー 」 「 レドゥ 」 の2つの音節ですが、 日本語訳の 「 いやされる 」 または 「 なおる 」 では、 最低でも 「 な 」 「 お 」 「 る 」 の3音節となります。 And with his stripes we are healed のフレーズは合計8音節になりますが、「 彼の傷で私達は癒える 」 を8音節に収めるのは至難のわざです。 この元フレーズを分析してみますと、 2分音符を中心とした厳しい歌い方のフレーズと、 4分音符が配列されたメロディアックなフレーズが交互に出ています。 そこで最初のフレーズを 「 彼が受けた傷で 」 と訳し、 後者を 「 我らの傷は癒える 」 としました。 このフレーズではメリスマは heal 「 ヒール 」 の言葉で歌われますから、 前半のフレーズでは 「 傷 」 の 「 き 」 、 後半のフレーズでは 「 癒える 」 の 「 い 」 と、 大切なところでは訳でも英語と同じ母音を使い原語の雰囲気を保っています。


  このように、 苦労を重ねたフォンテ流 「 口語訳 」、 演奏をお聴きになり、 ご高評を賜れば幸甚に存じます。 ( 唐沢昌伸 )


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